此れより展開しますのは、鋼部屋パラレル『北相屋諸々事』と『エレクトリック・レトロ』の設定を交換して書いてみよう改め向こうの設定にこっちの二人を押し込んでみよう企画、と題しまして、まあ、ちょっとしたお遊びの様なものです。
土方が番頭、銀時が下男。
レトロでは書く予定の無い、出会い篇を此方で書いてみました。
宜しければどうぞ。
北相屋雑事
腹が減った。
橋の上からぼんやりと川を眺め、嘆息する。
鮒でも泳いでねえかな、
そんでびしゃっと跳ねて此の辺に落ちたら良い。
小魚一匹見つからない水面をゆらゆらと眺め、獲らぬ狸……鮒、の皮算用を始めた。
鮒がいつの間にか鯛に変わり、飛んで金銀珊瑚迄化けた所で、
「悪ィんだがどうせ飛び込むなら三つ向こうに場所変えてくれねえか、」
返り見ると男が一人、実に面倒臭気に顔を顰めて居た。
「何で、」
断じて。
断じて飛び込む予定など無かったが、
「何で、って、なァ。」
もう一寸ばかし行った所にいけ好かねえ商売敵の店があるんだよ、お前上手い事其処の前で浮かんでくれ。
実に手前勝手な理由だった。
「何言ってんの、」
今更土左衛門如きでぎゃあぎゃあ言ってたら江戸っ子なんてやってらんないよ、
「俺が浮いたらお前、野次馬だらけになってごっそり客に取られちゃうよ、むしろお前ン所の前でやってやるから金払えテメー。」
何だそりゃ、と男は嘆息して、
「お前ェ、人死に見た直後に一張羅買う気になんのかよ。」
だからホレ、場所変えろ、思う存分浮いて来い。
当然の様な顔をして言う事は鬼の様、だが、言う所から見て呉服屋の手代と言った所か。
成る程、店先に置いておけば幾らでも女が集まりそうな面をして居る。
否、此の一癖も二癖もありそうな三白眼は、ついでに余計な敵も呼びそうだが。
「むしろ三日位沈んだ方が酷えかな、」
余計な事に思いを巡らして居る間に話が凄い事になって居る。
「待て待て待てェ、阿呆か誰がやるってった、」
慌てて口を出すと、男は心底不思議そうに首を傾げる。
本気だったらしい。
「別に飛び込むつもりで見てたんじゃねえよ。」
腹が減ったから魚でも居ねえかと探してただけだ。
はっきり言って身投げよりもみっともない話だが、此のまま行くと本気で落とされかねない。
案の定、男は眉間に皺を寄せて、
「何だ其りゃ、ンな暇あるなら働けよ。」
至極真っ当な事を言った。
煩ェなあ、何が解るってんだよ。
其れなりのお店に奉公して居るのだろう、其れかいっそ主人の側か、男の身なりは上等の部類に入る。
思わず其れに苛立ち、纏まりの無い頭を掻く。
働いては居る、正確には、居た。
万事屋、と称し、雑事から何から、一回幾らで引き受けて居たのだが、此処暫く碌な仕事に恵まれて居ない。
養う者も居ない一人身、何とかなると高を括って居たのが運の尽きで、もう三日、水しか口にして居ない。
「ふーん。」
滔々と、ついでに人の良い奴ならお涙頂戴、と言った程度に適当に色を付けて語ってみたが、男の反応は実に薄い。
「ならまァ、頑張って探せよ。」
飛び込まねえなら用は無い、白状に踵を返した男の羽織を全力で掴んだ。
「待てェコラ此処迄聞いて何も無しか、仕事寄越せェせめて何か奢れ人でなしッ、」
「あァ煩っせえなァだったらさっさと飛び込めや死体浚い位は出来るんじゃ無ェのか、」
「俺の死体を俺に浚えってかァ、」
無茶にも程がある。
喧々囂々、いまいち話が噛み合わないまま一頻り怒鳴り合った後で、
「糞、万事屋ってのは結局何処迄出来んだ、」
男は諦めた様に嘆息した。
「何でもやるよォ、子守から人足から船頭迄。」
紛れも無い押し売りだが、こうなったら逃がすつもりは無い。
ふうん、と先刻とは違った様子で、
「うちになァ、今にも死にそうな権助の爺さんが居るんだが、」
孫も元服間近だ、さっさと隠居しろッつってんだが聞きゃしねえ。
暫くは別に小僧か手代に代わりやらせりゃ良いんだからとっとと孫子供安心させてやれってのに、妙な義理を持ち出しやがって。
「其の爺さんの後で良いってんなら、話はしてやるよ。」
後は特に伝は無ェ。
男はそう締め括るが、予想以上にまともな口だった。
「今にも潰れそうな店だったらとっとと帰るぜ、」
「あァ好きにしろ、驚いて腰抜かすんじゃねえぞ。」
此れは道中の与太話だが、悔しい事に、男の忠告は実に正しかった。
羽織の影から地味なものの恐ろしく質の良い煙草入れが覗いたのは此の直後で、結局此れにも驚かされた。
何の因果か此の男に惚れたの腫れたの言い出すのは、此れから一月ばかり後の事になる。
ちなみに