イヤーズウェンイットパスタウェイ
夜になっても尚喧しい表通りより二、三ブロック。
薄汚い酒場で女が歌う。
私が死んだら街では祭りに成るだらう。
「何だよ、其れ。」
物騒な歌詞にエドワードは眉を顰めた。
「十年程前の詩だよ、評価されたものじゃない。私も、偶々手持ち無沙汰でなかったら目も呉れなかった。」
こんな歌詞じゃあ口説き文句にも使えない。
本気で嘆いて見せる。
確かに、とは思うけれど、どうも納得が行かない。
皆が着飾り女はご馳走を拵えて、
大概此の男は薄情で無神経だ。
勿論、そうではない事も知って居るけれど、其れと此れとは別の話。
「口説き文句、ねえ。」
口説かれた事なんて無いなあ、そう言えば。
判り切った事を(其れを認める事すら口惜しいが)不満げに漏らせば、
「何だ、口説いて欲しいのか、」
きっと全て読まれた上で馬鹿にされて居る。
多分、甘やかされても居るのだろうけれど、矢張り此れも別の話。
男はギタールを掻き鳴らし子は謡う。
「どちらだと思った、」
笑い声を収めて、低い声で呟く。
私が死んだら街では祭りに成るだろう。
「王様か神様にでも成ったつもりかよ?」
意図が読めぬまま素直な印象を応えた。
「ふうん、」
正解とも不正解とも、そもそも二択の選択肢すら見えて来ないのを放ったまま、息を漏らす。
パレードは何処迄も続き、御輿の意匠は華やかで、
「あんたは、」
あんたはどう思った、
「作者は何を言いたかったんだろうと、其れだけ気になった。」
死んだら、祭りに成るだろう。
「祭られる程の賢人や偉人と主張したかったのか、死を祝われる程の悪魔だと皮肉ったのか、」
普通の人間として死にたくは無かったのだろうと言う事は予想がつくが、
唯、己の無力さを嘆いただけの様にも見えたのでね。
己の死の、余りの無意味。
「だとしたら、其の主張は限りなく儚い。」
私が死んだら其の日は祭りに成るだらう。
「私と言う存在を消してしまわないで欲しい。」
私が死んだら、其の日は祭りに成るだろうか、
東の衆生は喝采を発し、
西は滞りなく替えを見繕う。
「下らねえ。」
「全くだ。」
憮然とした物言いを、さも嬉しそうに笑って返す。
其れだけが私の最期なら、
消えて無くなるのも其れ程悪くない。
「そんな感傷に浸って居られる立場かよ?」
未来の大総統。
其れこそ、死んだら其の日は祭りに成るだろうよ。
「嬉しい事を言うじゃないか、」
「褒美は?」
「さて、どうしようか。」
にんまりと笑う其の唇に口付けた。
私が死んだら其の日は祭りに成るだらう。
彼の生涯は幸福であったとも不幸であったとも言われるが、
結局彼は此の詩の他、名前すらも世には残せなかった。