蜜話キ
一、鋼の義手と彼方の黄金
其の手は、決して綺麗などと呼べるものではなかった。
焔と煤と灰と人の焼ける臭い、硝煙と爆風と熱風と絶叫と憎悪と後悔と慟哭と
太陽と砂と土と雨と泥と涙と。
間接的にしか戦争を知らない自分が凡そ考えうる全ての汚濁に塗れて居た。
そして恐らくは、所詮は十五の子供でしかない此方の予想もつかないものにさえ。
其の汚濁はしばしば、まるで己の罪の様に喘いだ。
二、焔の指先と鈍色の鉱物
其の手は、時折とても綺麗なものの様に見えた。
取り戻す必要の無い左腕よりも余程。
接続面は生々しい傷跡を無表情に覆い、鋼は周囲の気温其の侭に熱かい、寒苦する。
生命の欠片も連想させない機械は何処迄も無機質だ。
其の腕を喩え切り裂いたとしても血はおろか一滴の水も流れない事実が、
何故か好ましくすら思えたのだ。
三、却説。かかる頃の恋人
「アンタさあ、」
押し出す様に呟き、エドワードはロイを見遣る。
「其れ好きだよな。」
本当は一番相応しい指示語は「此れ」なのだが、どうも此方の方が正しい気がする。
右肩から生える鋼の義手。
流石に腕は生えて居る人間のものだろうと思うのに(其れが喩え義手だとしてもだ)、ロイはまるで己の所有物の様に其れに口付け、笑んだ。
「うん、好きだよ。」
こんな風に迷い無く好意を示せるのは己が子供だからなのか此の男が大人だからなのか、
もう少し共通点があれば比較も出来るだろうに、自分達はどうしようもない位本質的な所だけが似通って居る。
「ああ、惜しいなあ。」
ゆったりとした口調に眉を顰める。
其れを見て、ロイはもう一度、音を立てて義手に口付けた。
まるで己の所有物だと主張する子供の様に、其の割りに妙に淫猥に自分の腕を絡める。
「此れが君の性感帯だったら。幾らだって愛でてやるのに。」
そう言う事を真顔で言われて平然として居られる程、肝の座った性格はしていない。
此の、変態め。
呆気に取られた悔し紛れに呟くと、何が可笑しいのか「酷いな、」とくすくすと笑う。
「手は錬金術師の命だろう、恋人の命を愛でて何が悪い?」
ほら、と、同じ行為を求める様にロイは右手を差し出した。
顰め面のまま、其れを受け取る。
「俺は、」
アンタの中で一番、此れが嫌いだ。
どう見たって失言だったろう其の科白に、ロイは何故か満足気に笑った。
知ってるよ、鋼の。
表情だけで応える。
「だからこそ、」
君にこんな事を許してる。
「悪趣味。」
「知ってる。」
「自覚してんなら何とかしろよ、」
其の言葉に、ロイはにんまりと笑みの種類を代える。
まるで、望んで居た科白を引き出した様に。
「困ったなあ、」
此れっぽっちも信頼性の無い口調で言われた其の科白の真意を諮る事は、
何だか物凄く嫌な予感がしたので止めておいた。