2.気づくのが遅すぎた
自覚したのは実を言えば一番最後だ。
気が付いたら告げて居て、意味を理解する前に床に崩れ落ちた。
普通、好意を告げて間髪入れずに鳩尾に一撃は貰わない。
だから、此れは別に自分が弱いとか不覚を取ったとかそう言うのではない筈だ。
みっともない事は認めるけれど。
「あんまりだ。」
生々しく痛む腹を抱えたまま苦情を述べると、「何が。」と実に冷たい科白が帰って来る。
「何がって、」
ねえ、此の一連の全部だよ全部。
訴えは案の定、
「……だから、何が。」
余計に痛い間を伴って棄却された。
たかが数ヶ月分の家賃滞納で情け容赦なくアパートを追い出されたのが一ヶ月前。
手当たり次第に伝をあたって辿り着いたのが此の男だ。
今迄の棲家とは比べ物にならない設備に涙して、
だからと言って居る事を許す以外一切の歓迎をしない潔さに別の意味で涙した。
(其りゃ、滅茶苦茶助かっては居るけど。)
路上生活者寸前の、大体元々性質は似て居ても全く気が合わなかった男をさらっと拾った辺りは拾われた身であっても愕く。
一時期他人の家に世話になった事があると言うから、今では余り見ないそう言う感覚が当たり前の事として根付いて居るのかも知れない。
感謝はして居る。
柄ではないし、恐らく向こうだって気味悪がるだけだろうから茶化してしか言わないけど、有難いとは思う。
そう言う感情とか、珍しく付き合わされた酒に妙な殊勝さが加わって、
其れが偶々妙に下世話な方向に流れた話の所為で知った男の性癖とか、
何だか色々なものがごた混ぜになって何故か好意を告げて居た。
(酒って怖い。)
まあ実際一番怖いのは、酒が抜けても好意が消えて居ない事実なのだけど。
どんな流れであれ同性に恋愛感情を抱いて、相手が同性愛者だったら其れは幸運に分類される筈だ。
なのに其の対象は実に冷たいし、拳をぶち込まれた腹部は痛い。
「あんまりだ。」
何度でも言ってやる。
大体、自分が拾われた相手が同性愛者で自分と同性で、其れなら一寸妙な勘繰りをしても許されるんじゃないのだろうか。
どれだけ凶暴でも恐ろしく真面目な男だと言うのは知って居るからそんなつもりが一切無いのは解って居ても、
「別に、そっちなら、ねえ。」
良いじゃん。
どうしたって少数である性癖に何らかの苦しみを抱いて居るなら兎も角、話の流れで呆気なくばらす辺り此の男は其れを一切気にして居ない。
其れなら、別に良いじゃないか。
好みだって在るだろうけど、其れにしたって此の男の反応は同性に告白された異性愛者のものだ。
ぶつぶつと思いつくまま恨みを述べると、
「あのなぁ、」
やっと男は「何が。」以外の科白を発した。
「別に同性愛者だろうが異性愛者だろうが、居るんだよ。性欲自体殆どねえ人種ってのが。」
確かに性対象は同性だが、そもそも人と交わる事に対する欲求が矢鱈淡白なのだ。
「だから期待に添えなくて悪いけどな、」
断る。
余りにもばっさりと切られて、一瞬意識が遠のいた。
つうか、そんなら其れで早く言ってくれ。
此方が妙な気を起こすよりせめて数秒早ければ、こんな不毛な恋愛になど足は突っ込まなかったのに。
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